塗膜試料採取及び復旧
橋梁や水門等の鋼構造物に施されている塗膜(塗料)には、塩化ゴム系塗料の可塑剤として添加されていたPCB(ポリ塩化ビフェニル)、防錆材として使用された鉛やクロムなどの有害物質が含まれている可能性があります。
塗膜中の有害物質で鉛が注目されるに至った背景として、2014年には高架橋の塗料塗替え作業において鉛中毒災害が発生しました。
これを契機に、鉛による健康障害の防止が必要とされ、塗料の剥離、かき落とし作業の方法が定められました。
しかしながら、2018年にはまたしても高速道路工事作業員から鉛中毒症状が確認されました。
また、PCBにおいては1974年に使用禁止となりましたが、近年、塗膜中に製造過程で非意図的に含有されている可能性があることが判明しています。
PCB含有廃棄物は、特別管理型産業廃棄物として管理されており、高濃度PCB廃棄物(100,000mg/kg超)については処理期限が迫っています。
環境省は円滑な塗膜処理を進めるため、高濃度PCB含有塗膜の調査指針を通知しました。
なお、西日本エリアでは、処分期限が2021年3月31日、東日本・北海道エリアでは2023年3月31日に設定され、早急な塗膜調査が求められています。
低濃度PCB廃棄物(0.5mg/kg超)の処分期限については、2027年3月31日となっています。
机上調査・現地踏査・準備
机上調査では対象構造物の竣工年度や塗装履歴、使用材料等の諸元を調べます。現地踏査では塗膜試料採取箇所の作業性の良し悪し等を調査し、対象箇所の塗装膜厚測定も実施します。塗装膜厚の結果を踏まえてマスキングテープで採取範囲を決定します(写真は0.7m2)。なお、採取箇所は塗膜が直射日光を受けていない健全部で実施することが推奨されています。
塗膜剥離剤塗布
橋梁や水門などの社会インフラに施工される塗装は一般的に多層で塗られています。採取方法は主に物理的採取(ケレン棒による人力やグラインダー、超音波)と化学的採取(剥離剤)の2種に大別されます。当社では、塗膜くずが発生しない剥離剤による方法を採用しております。
剥離作業
やわらかくなって浮き出てきた塗膜を剥ぎ取ります。採取の際は、塗膜の暴露、飛散対策を入念に行い、保護具を着用、必要に応じ鉛作業主任者および特定化学物質・四アルキル鉛等作業主任者による立ち会いを実施します。
試料採取
剥ぎ取った塗膜試料を密封袋に入れ、分析に要する試料量を満足するか否かについて確認します。一般的には、溶出試験(PCB、鉛、クロム)と含有試験(PCB、鉛、クロム)の両方の分析を実施しますが、その場合、乾燥塗膜の状態で200g程度の塗膜試料が必要です。
下塗、中塗
塗膜試料採取後、直ちに復旧します。ここでは、下塗と中塗を同時に1回の塗装で実現できる超厚膜無溶剤系セラミックエポキシ樹脂塗料を採用しております。従来のRc-V塗装系による下塗3回、中塗1回の工程を1回の塗装で代替可能となる新技術です。1回の塗装で750μmの膜厚を得ることができます。
上塗
最後に上塗を施して復旧完了です。事前調査時に上塗色の色番号を確認していたため、極めて元の状態に近い感じに戻すことができます。上塗の際は、有機溶剤作業主任者による立ち会いを実施します。